世界一四尺玉の匠!

世界一の大きさを誇る四尺玉を打ち上げる20年以上のサラリーマン生活を経て家業を継いだ業界の風雲児本田氏の矜持とは

PROFILE

本田 正憲 氏

有限会社 片貝煙火工業 代表取締役
公益社団法人 日本煙火協会
元会長・現理事講習会公認講師

公益社団法人 全国火薬類保安協会
元理事・現講習会公認講師

世界一の大きさを誇る四尺玉が目玉の片貝まつり。毎年九月九日、十日の二日間で約20万人が訪れるこのまつりは、NHKテレビドラマ「こころ」に登場してから更にその知名度は加速し、地元の人々の誇りとなっている。町から離れた人ですらこの日だけは帰省するという、まさに心を繋ぐ花火を手掛ける、20年以上のサラリーマン生活を経て家業を継いだ、業界の風雲児本田正憲氏に話を聞いた。​

売るためには何を作ればよいのか

――家業でありながら、最初はサラリーマンをやられていたとか。

そうです、食品会社で営業をしていました。そこから紆余曲折あって大阪から帰ってきました。

――昔ながらの花火だけど、ビジネスマンをやられていたのもあって、ちゃんと経営をしているところが違うなとおもいました。

私は運が良かったというか、先ほど申し上げた通り営業をやっていたので、ものを作るよりも売るほうが先でした。なので、売るためにはどのように売ったらいいのかということが考えられました。​

――販路とプロモーションと。

スーパーマーケットで、例えばラーメンを目立たせるようにしたりするのと同じです。玄関の先に山にするなど。​

――そういう企画力が見えますよね。

そういうところにおりましたから。昔ながらの方々は作ってなんぼの世界ですが、私はそうではなく、売るためには何を作ればよいのかという考え方です。

何もなかった。特に勉強もしていなかった

――有名な四尺玉についてのお話ですが、こちらは本田さんのお父様の代からやられている。

そうですね。ただ最初はほとんど携わっていませんでした。先代は市会議員だったので、議員になったときに町の活性化の一環で、祭り好きだったこともあり、花火に着眼したと聞いています。祭りで人が集まるということを活性化に持っていきたいということがあったのだろうと思います。そこから一生懸命祭りを盛り上げてきて、マスメディアにも片貝まつりが取り上げられるようになりました。ただ、この片貝まつりというのは他の祭りと違って、地元に花火屋さんがないと成り立たない祭りです。そういったところが、後継者がいなくて廃業しようとしていました。先代は自分がせっかくここまでやってきた活性化をなくすわけにはいかないということで、先代が引き取りました。ただ、思うようにはいかないこともあり、私が帰ってくるという流れになりました。ただ、先代と一緒にいたのは8年もなかったかと思います。当時の親父は観光協会会長をやっていたので。

――サラリーマンをやられていたころから多少知識はあったわけですか?

何もなかったです。特に勉強もしていませんでした。そのような中で、一番先にやらなければならなかったことが、この工場(片貝煙火工業)の立地の許可権利を取ることでした。この許可を取るためには必ず製造免状というのが必要になってきますが、こういったものを、ひとつずつ条文をやり取りしながらやると、それが勉強になったのだと思います。

――こういう保全が必要なのだとか。

こういう距離を取らなきゃいけないとか、本当に花火に必要なことが沢山です。更に後になってから考えると、工場を作るということに携わったから楽に免状が取れたのだと思います。そこで勉強ができしまったということです。​

新潟と長野が花火どころとして生産量としてはダントツです。

――時に、聞いた話によると、越後3大花火を中心に、新潟は花火生産量がナンバーワンということですが。

一昨年のデータをみると、新潟県の打上花火生産量は長野県と肩を並べてシェア14%前後で(全て網羅でき切っていることではないが)新潟県と長野県は全国トップクラスであり、その次は8%以下となります。​

――何か理由があるのでしょうか。

例えば、花火を打ち上げるにあたり、安全距離を確保しないと打ち上げることができません。なので、都心だと大きな玉は打ち上げられない。そうすると、地元の花火屋さんは種類による生産量が異なってきます。​

――なるほど。

5号の花火玉より小さい玉は安全距離が確保できる場所があるため、消費量もあり、生産量もあります。ただ、大きい花火玉は、消費量のある所では種類も多く生産量もありますが、少ない生産量の所では種類も多く製造できないため、コストも高くなります。そのため、多く製造する業者に依頼するのもあり、生産の偏りが進んでいるのだと思います。​

――意外と知られてないですよね。

9号玉以上で見比べてみると、新潟県はシェア48%、長野県はシェア12%、その次は8%以下なので、新潟県は大玉生産県と言えるでしょう。​

我々の先輩達が経験したことを、融合させたライン

――四尺ということは1メートル20センチということですよね。

そこには実は誤解があります。花火というのは元来武器から来ています。ですから武器というのは玉の大きさでは言いません。全部発射口の大きさ、ピストルは何口径、大砲だと何ミリ砲といいますよね。それは全部発射口の内径です。

――そういうことですか。

そして、ピストルとか大砲は鉄の玉で作っているため歪が少ないのですが、花火は紙と糊で作っているため、どうしてもへしゃぐ確率、つまりラグビーボールになる可能性が大です。ですから内径が1メートル20となると、本来であれば絶対上がらない。ですがそこは私の経験として、自分の玉がいかにどの程度の強度を持たせるかというノウハウを得ることができたので、打ち上げることができるのだと思います。どこまで小さくしたらいいか、今度は小さくしすぎるとガスが抜けてしまうなど、そのバランスの微妙なところが大切です。​​

――サイエンスですよね、花火って。

そうですね。それは実はおもしろくて、東大の教授も言ってらっしゃったのですが、計算式はわかっています。ただ計算式ではあがらない。そこは今までの先輩たちが経験してきたことが必要になります。経験と、そしてさらにそこに計算式理論に基づいたその調和をどこで取ってやっていくかということが重要です。しかも大きい花火というのはテスト的に打ち上げられません。なぜかというと四尺玉は制作日数が1年かかるわけなので、実験するといっても1年後にしかできないですから(笑)。なので花火の理論はある程度の大きさになると、見当がつけられる経験がないと難しいわけです。

――長年の経験からくるものですよね。

そうですね。それは自分が経験したことと、我々の先輩達が経験したことを、融合させたラインです。

――やはり日々進歩していますね、花火自体も。

ただ、今度は経済と保安の問題もあり、大きいのを作ればいいというものでもありません。私は四尺玉を昭和63年から製造しているので、「本田さん四尺なので次は五尺だね」とよく言われます。しかし正直に言うと、日本では尺玉でさえも上げるところが少ない。となると我々も企業である以上、そのような大きなものに投資をするというのは難しくなってきます。

地元の人って、その地元の良さや、良いものに気がついてないことが多いんです

――そんな本田さんは、片貝まつりでもやられていますが、ぎおん柏崎まつり海の大花火大会も手掛けられている。

そうですね。ぎおん柏崎まつり海の大花火大会はたまたま柏崎市の煙火工場が、閉業するという状況でご相談をいただきました。その前に、柏崎の現場を手伝って見ていたのもあり、その当時はもっと改善できる所があるかもしれないなという印象がありました。まさか自分がそれを引き受けて、打ち上げるとは思っていませんでしたが。​

――本田さんが思った改善点とはどのあたりなのでしょう?

色々な面でありました。私から見て量的にも多く上がっている花火大会をそれでは勿体ないと思い、花火の打ち上げ方と観客席など全体的なレイアウトを変更したいと話しました。​

――なるほど。

ちょうどその時、柏崎市が悩んでいたのは企業誘致でした。当時の柏崎市は、列車の引き込み線があったりしましたが、今度はバブルが弾けて引けてしまいました。そうすると税収も当然下がりますよね。柏崎市が言うには、工場誘致はやめないが、今までみたいに力をいれるのは難しいという流れでした。​

――メインの産業ではないと。

「観光地として柏崎って魅力あるか」という相談がありました。ですから、いや、もちろん魅力ありますよと私はこたえました。ただ、観光というのは私も昔経験しましたが、地元の人って、その地元の良さや、良いものに気がついてないことが多いです。アミューズメントパークとなると別ですが、昔は自然環境とか、そういうものです。だから結局群馬県の人だって海水浴といったら柏崎に行くとなっているのに、地元の人はそういう感覚がない。だからそこを、県外から人が来た時に利便性があるようにシステムを組む。そうすれば私は全然問題ないと思いますとお伝えしました。​

――確かに。

そしてその上で、私が花火大会を起爆剤として仕掛けましょうということになったのです。その年に有料観覧席を作り、これだけの素晴らしい花火はお金を頂いて見せるべきだと。そして関東周辺のエージェントを80社ぐらい回ったりして、観光バスも来ていただけるようになり、最初は6台からスタートしましたが、今は百何十台というところまで来ています。​

――すごいバイタリティです。

その人たちに少しでも柏崎の良いところや産物など、目を向けてもらうように努力をした。そんなことを続けていた中、柏崎市が市政60周年にあたり、三尺玉の6連発をできないか、というお話をいただきました。​

――お断りしたとか。

なぜかというと、尺玉まではほぼ技術が確立されてきています。でも二尺以上は失敗もいっぱいあります。だから三尺はめでたい席に飾るものではないと思いました。日本の花火は優秀だと言われていますが、それは尺玉まで、では尺玉使ってどうするのがいいかということで考えました。当時、尺玉60発を打ち上げている花火大会もあるので、やはりお客様を集めるには60じゃ物足りない。では、ゼロを付けて600だ!と提案しました。

――スケールが一気にあがりましたね。

資金も厳しい中でしたが、なんとか頑張りに頑張って実現しました。そうしたら、インターネットでその規模に注目した方々が大勢集まり、当日は街中が歩けなくなって、ごった返しちゃいました(笑)。​

――そんな経緯があったのですね。

そしてこの次どうするという話になり、600はもう来年は流石に無理だけど、300だったら来ていただける人も、去年は特別だということで納得してくれるのではないかという思いから設定しました。そこからずっと300を今でも行っています。​

――そこから100発一斉打ち上げというところへはどのように繋がるのでしょう。

それで今度はお客様から70周年の前に、今度は700連発か、という声が聞こえてきました。私はあれだけのいい堤防があるので一斉に尺玉100発でやってしまおうとなりました。​

――それで100発同時に打ち上げたと。

それが70周年の時だと思います。そこからずっとです。

――そうした工夫の中で生まれてきたのが、スターマインなどを生んでいる。

あれが一番はじめで、引き取る前の会社さんが堤防の上でやっていました。でもそれは一回きりしかできない。なぜなら導火線を這わせたやつでやっているためです。だから今はそれを電気でやっていますので、回路によっては何回かできるようになりました。

緻密な一つでみせるか、筒並べて一斉に100発をやったほうがいいという発想の違い

――しかし花火って色んなものを表現できるじゃないですか。色も綺麗になってきて。日本の花火技術の高さはなぜ今世界で一番でいられるんでしょうか。

おそらく道が2つあったのだろうと思います。まず1つは、日本は資源がない。結局、資源を大事にしようというのが昔からあったと思います。なので、技術力というのが進化します。ところが資源がいっぱいあるところというのは、資源のありがたさというのを分かっていない。なので、ヨーロッパあたりの花火はふんだんに火薬を使用できます。そのような違いが表に出てきたのだろうと思います。有名なアミューズメントパークで毎日のように花火が打ち上がり、花火ショー的な花火を見せるようになりましたが、日本の花火をあれに使おうとすると合いません。それはなぜかというと、技を花火玉、1個の中に詰めすぎています。だから1個の花火玉の中に二重の芯などが入っていたりします。千輪菊という花火の種類がありますが、外国では、玉の中に入れて打ち上げません。筒を30本一緒に火付けて打ち上げればいい、という発想なのです。日本人はそれを細かいのをいっぱい開かせようと思うから、あえてひとつのものに詰めて、空いっぱいに開かせるという計算するのです。緻密に一つでみせるか、筒並べて一斉に100発やるかと思うか、発想の違いだと思います。

――日本の技術の素敵な部分だと思います。

今度は打ち上げ方法が電気点火になり、そのようなことをしなくてもバンバン打ち上げて、演出ができるということが出てきました。なので、今度は専用の花火玉を製造し、打ち上げようと考える。ただ、どこに行っても同じことをやっている気がします。だからあの人がやっているから、俺もできるというのはやめたほうがいいと。自分が大切にしているものを個性にした方がいいと。よく言われるのが、ぎおん柏崎まつり海の大花火大会の担当をしているので、四尺玉を打ち上げてくれるだろうと言われます。でも私は打ち上げません。なぜかというと、私が一番大事にしていることはロケーションです。お客様がどこから見てもらえば一番柏崎らしいのか、何が一番片貝らしいのか、ということを大切にしているからです。片貝はあくまでも昔からの神社の奉納、祭礼です。やはり神社でお参りするあの音が聞こえることが大切なのです。その土地が山なので、山地でやるには、大きいものじゃないとダメなのです。一方、ぎおん柏崎まつり海の大花火大会は「海」です。そこに良い堤防がある、堤防を最大限利用してこそ、海の花火です。

――最後に本田さんにとって花火とはなんでしょう。

私はいつも話すのは「夢」。それは新しい花火を製造するのも「夢」。新しい花火大会を演出するのも「夢」。それは自分がこの人生をどのように花火に関わって全うするか、これも「夢」です。ひとつの偶像的な夢ではないです。色んな思い、それが全部俺の「夢」ですね。​

取材・文=秤谷建一郎

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