挑戦と感謝の歴史!

ゼロの状態からスタートした『こうのす花火大会』の道のりとは

PROFILE

鴻巣市商工会青年部 部長

平賀 雅史 氏

こうのす花火大会 実行委員長

三浦 勇一 氏

こうのす花火大会 広報部会長

豊島 直樹 氏

埼玉県鴻巣市の商工会青年部が、「地域の振興発展と子供たちに夢や希望を与えたい」という願いを込めて主催している「こうのす花火大会」は、ボランティアによって運営されている。尺玉300連発で構成される「鳳凰乱舞(おおとりらんぶ)」は日本一のラストスターマインとも呼ばれる圧巻の打ち上げだ。2014年には世界一重い4尺玉を打ち上げギネスブックにも認定された。今年で開催18回目を迎える「こうのす花火大会」が始まったきっかけ、開催までの苦労話、2019年の見どころや今後の野望について、鴻巣市商工会青年部 部長 平賀雅史氏、こうのす花火大会実行委員長 三浦勇一氏、広報部会長 豊島直樹氏に熱く語ってもらった。

ゼロの状態からスタートした『こうのす花火大会』

――こうのす花火大会が始まったきっかけをお聞かせください。

豊島:私は第1回の立ち上げから携わっていますが、三浦と平賀の二人は、2011年の第10回からの参加です。というのも、現在の鴻巣市は、鴻巣市と旧川里町、旧吹上町の市町村合併で成り立っています。2005年の市町村合併に伴い、その後2010年に商工会青年部も合併したという歴史があります。

――第1回の立ち上げから関わっているということでたっぷりとお話が伺えそうです!

豊島:どこから話せばいいのかってくらい、いろいろなことがありました(笑)。第1回目の花火大会に関しては「花火大会をやりましょう!」という形で始まったわけではありません。商工会青年部とは、商工会(親会)の下部組織で、当時の青年部の仕事は催事事業の“お手伝い”がメインでした。そういう仕事はどうしても「やらされている」という感じがしてモチベーションが下がりがち。実務的な研修会などはあまりないのに、手伝いが生じるイベントが多い。青年部員は経営者の集まりなのに、自分たち主導で動かすものが何もない。どんどん出席率が下がっていく状況が続いて「これではいけない!」と思い、青年部で主催事業をやってみたらどうかと提案しました。伝統や継続を重んじることは大切ですが、モチベーションも出席率も低下している状況を打破したかったんです。

――なるほど。そこからどうして花火大会になったのでしょうか?

豊島:実現可能・不可能に関わらず、今までやったことのないこと、インパクトがあること、地元に貢献できること、誰もが好きなことなどを条件に、案を出し合いました。候補に上がったのは、サスケ、サンバカーニバル、球技大会、市内全部を使っての鬼ごっこやかくれんぼ、仮装行列、そして花火大会。中でも花火大会はイベントの最高峰でした。しかし、せっかくやるなら花火大会くらいインパクトもあって地域に貢献できるものに挑戦したいと思ったんです。花火大会を開催するために何をすればいいのか全くわからない、ゼロの状態からのスタートです。

――花火大会を未経験から始めるのはかなり難しそうです。

豊島:ラッキーなことに、近隣の東松山市で商工会青年部が携わっている花火大会があったので、そこで1からすべて教えてもらいました。秩父にある青年部の花火屋さんまで紹介してもらいました。資金集め、警備計画、許認可の申請など、あまりにもやることが膨大で、「本当にできるの?」とメンバーの心が闇の中に落ちていくのを目の当たりしました。でも私を含む数名はとてもポジティブな人間で、開催することだけを考えていたので、できない理由は考えずに、花火大会を開催するためにクリアすべき課題が出て来たら、どうすれば乗り越えられるかだけを考えるようにしました。一歩一歩焦らずにやっていこう、と心に決めて。自分たち主導のイベントをやろうと提案してから、すでに2年が経過していました。

――豊島さんは心が折れなかったのですね。

豊島:はい。花火大会開催しか見えていませんでしたから。ここからさらに10ヶ月要して、ぶ厚い資料を完成させて、行政・警察・消防関係にも話を通して、さて実行するぞという段階で、執行部、理事会から「本当にできるの?」という声が出たんです。青年部の中にはいろいろな組織があって、承認をもらうべきところがいくつもあり本当に大変でした。花火大会開催のためには、青年部内部にもクリアすべき問題がたくさんあったというわけです。しかし、今となってはそのやりとりがあったからこそ、成功したと感じています。伝統を重んじ変革を好まない慎重派の先輩方、新しいことに挑戦したい行動派の若者たち、新旧対決みたいな形になりましたが、いろいろな問題を洗い出して理解を求め、解決を繰り返したからこそ、問題点がすべてクリアでき開催、そして成功に繋がったと考えています。先輩方がいたからこそ生まれた青年部魂ですね。

――アツいですね。青年部内の雰囲気は変わりましたか?

豊島:部内の活性化につながりました。出席率も上がったし、モチベーションも上がっているのは肌で感じていました。

――そして、旧吹上町から来たお二人は開催10回目からの参加となるわけですね。

三浦:会場設営や資金集め、すべてやったことのないことばかりでした。10回目からなので、途中参加にはなるのですが、花火大会の規模はどんどん大きくなっているので、その分資金集めが必要になります。泥だらけになって杭を打ったり、仕事が終わって20時くらいに集合してそこから0時まで。全体会議や各部会など、打ち合わせもたくさんあります。1週間のうち何日ここに来るんだなんて思いましたが、それで仲間意識も構築された気がします。一番大変なのは資金集めですが、ありがたいことに年々増えている状況です。

平賀:私の場合は、吹上時代から青年部への参加に対するモチベーションが下がっていました。合併してすぐの花火大会には、当日か、前日くらいから参加する程度だったのですが、だんだん取り憑かれていきました。合併がモチベーションを上げるきっかけになりましたね。今では大会当日の1〜2週間前には昼間から足を運んで取り組んでいます。花火大会が出来上がる様子を見て、一人の力でもみんなで集まればデカイことができる。その一人の力になろうかなと思い始めて徐々に携わっていきました。人前に出て何かをやるのも、話すことも大の苦手なのに、今では青年部の部長なんてやっていますし(笑)。

――花火は1日なのに、準備にかかる時間が多くて大変そうです。皆様お仕事もありますし……。

平賀:特に花火大会が開催される10月は、前後にいろいろなイベントがあります。三大主催事業であるチャリティゴルフ大会、冬にはサンタの格好をして街の子供たちにプレゼントを配るというイベントもあります。そのほか、研修会、講習会に参加して経営者としての資質をあげなければならないので、大変です。

三浦:全国で発表会があったり、県では野球大会もあったりするので、家族と過ごすより仲間と過ごすことの方が多いかもしれません。家族そして会社の支えと協力のもとにできている活動です。特に、家族には感謝しかありません。

――こうのす花火大会といえば、<鳳凰乱舞>の打ち上げが象徴になっていますが、このプログラムはどのように誕生したのでしょうか。

豊島:2002年に70名だった旧鴻巣市の部員数は、2010年には卒部などの理由で25名にまで減少していました。そんなタイミングで一市二町の青年部で合併の話があり60名に増えることになったんです。人数も増えるし、新しい力を結集して頑張ろうとした矢先に、東日本大震災が発生しました。せっかく合併までこぎつけたところで、みんなの心はバラバラになってしまいました。でも、これが<鳳凰乱舞>が生まれたきっかけになります。花火大会をやる意義、立ち上げた経緯や想い、この花火大会を成功させ大きな達成感を共有することで、未来につながる結束と青年部活動をやっていて良かったと思える誇りを持ってもらいたい、心を一つにしたい、新しい商工会青年部を生み出したいという気持ちをみなさんに伝えていきました。当時、イベントごとは自粛ムードだったのですが、こういう時だからこそ、自粛の自粛を宣言し、発想力、行動力、バイタリティを持ってより積極的に行動し、経済を動かそう。花火大会を成功させることで鴻巣を元気にする。埼玉を元気にする。そして、花火大会で収益を上げ、その中から被災地に義援金を届ける。そういう花火大会にしたいと訴えました。<鳳凰乱舞>は被災地に対する鎮魂の想いと、我々青年部の合併の象徴でもあったのです。震災の影響で夏の開催には間に合わないけど、秋ならどうにかなる。これが秋の開催になった理由です。3尺玉2発と尺玉300連発。合併の象徴でもあり、絆の証。そして復興支援のシンボルとして誕生したのが<鳳凰乱舞>です。

――<鳳凰乱舞>の名前の由来はあるのでしょうか?

豊島:花火大会よりも以前から、もう一つ新規事業を立ち上げようと考えていました。それがよさこい祭りです。最終日に参加者全員で一斉に踊る、乱舞というのをやりたいなと。よさこいの最後(おおとり)の乱舞に<鳳凰乱舞>ってつけたいと思っていました。よさこい祭りは実現できなかったのですが、この名前は気に入っていて、どこかで使えないかと温めていました。鴻巣市には地名の由来となったこうのとり伝説があり、こうのとりにまつわる神社や祭りもある。こうのとり→大鳥(おおとり)→鳳から鳳凰というのが浮かび「鳳凰」と書いて「おおとり」と読もうって。鎮魂、雌雄同体、無くなっては生まれて再生を繰り返す。地元の復活と復興支援にもぴったりだなと思いました。この話は後付けではないですよ。

――四尺打上げの挑戦にもきっかけがあるのでしょうか?

三浦:日本三大花火に肩を並べられるような花火大会にしたい、そんな思いから<鳳凰乱舞>以外にも何か目玉になるようなものを考えていました。そこで思いついたのが四尺玉でした。広い荒川の河川敷を活かしたスケールの大きい花火は、こうのす花火大会の特徴ですが、川幅日本一を最大限に活かした、ここでしかできない花火は四尺玉しかない。都心で四尺玉が見られるというのは、こうのす花火大会がもうひとつ成長するきっかけになると思いました。前例がない花火の打ち上げだったので、本当に四尺玉の打ち上げが可能なのかどうか、試し打ちをして、許認可を取るまでの戦いが始まりましたね。

豊島:新しいことを始める、前例がないことをやるわけですから、そこからは立ち上げ時と同じような努力が必要です。本当に大変でした。試し打ちの設営準備には丸一カ月を要しました。鉄板を何百枚と敷いたり、1トンの土のうを300袋も作り運んだりと…。

平賀:でも運のいいことに、鉄板も青年部員の中に取り扱ってる会社があったりして。鉄板、重機、クレーンなど、必要なものは全部青年部で準備できるんです。予算削減にはならないけど、業者の手配の手間は省くことができますね。信頼できる会社ですし(笑)。

三浦:試し打ちのときはドキドキしすぎて、少し影から見守っていました。

平賀:ドキドキしながらも、これくらいのことやらないと挑戦にならないという気持ちで見つめていましたね。

――前面に有料観覧席も配置していますが、観客の誘導や安全対策などで気をつけている点はありますか?

三浦:最初はメイン会場しかなかったのですが、来場者数も増えて、いろいろな観覧エリアを作るようになりました。車で来る人もいれば、電車で来る人もいる。有料の良い席で見たい人もいれば、無料で見たいという人もいます。どなたでも安心して楽しめる環境を整えるよう工夫して……。一極集中しないように配慮しています。

平賀:無料席だからといって、場所だけ用意するのではダメ。照明を準備したり、スピーカーを置いたり、キッチンカーをずらりと用意するといった工夫はしています。

――今後の野望や、こうのす花火大会の未来ビジョンなどはあるのでしょうか?

三浦:日本三大花火大会に肩を並べられるような勢いでやっていきたいです。街の活性化に繋がるように、いろいろな団体と協力して、市民がボランティアで来てくれる。鴻巣全体で作れる花火大会になっていくことができたら、花火大会としての質も上がるし、さらなる街の活性化に繋がるかなと。青年部の存在意義は街の活性化ですから。すでにボランティアはたくさん入っています。消防団、自衛隊、中学校など。花火大会後のゴミ拾いだけでなく、設営から手伝ってくれる市内の中学校もあるんですよ。

豊島:確か、第7回か8回の開催のときに手伝ってくれた野球部の子が「将来、花火大会やりたいです」って言ってくれて。涙が出そうになりましたね。

三浦:花火大会を商工会青年部がやっているという認識で、そういうことを言ってくれる子がいるのはうれしいし、頼もしいです。そういう子が将来青年部に入ってくれたら、って期待しちゃいますね。

――2019年の見どころを教えてください!

三浦:こうのす花火大会の魅力は、音楽とのマッチングにもあります。昨年から<鳳凰乱舞>の曲を募集して現在も投票受付中(現在は終了)です。前回は「打ち上げ花火」という曲でやったのですが、今年はどんな曲で<鳳凰乱舞>が見られるのか。最初から最後まで飽きないプログラムを検討中なので、期待してください。

平賀:会場ごとに花火の見え方が違います。いろいろな雰囲気を味わってもらいたいと思います。前回とは違うエリアで鑑賞してみるのもオススメかと思います。

三浦:花火以外の出し物も魅力です。地元のアーティストが音楽祭をやったり、無料エリアには2-30台のキッチンカーが登場するので、ちょっとした食のフェスのように楽しめます。

豊島:花火だけを楽しむ2、3時間で終わるのはもったいないです。昼間から来て、鴻巣を楽しんで、夜は花火を堪能してもらう、これが理想の過ごし方ですね。

三浦:埼玉県とメキシコ州の姉妹都市40周年を記念して、本場メキシコから、現地の花火師さんが来て仕掛け花火を披露してくれる予定です。詳細はまだ言えませんが、珍しい花火なので、こちらにも注目してほしいです。こちらは県の事業としておこなうので、こうのす花火大会のプログラムの前にやる予定です。

――では最後に。鴻巣市商工会青年部様にとって「花火」とは?

平賀:一番大きい事業なので、「核」ですね。青年部の活動にはさまざまなものがありますが、実働的には花火が軸になっていることは確かです。それをきっかけに街の活性化、地域貢献ができればいいなと思っています。

三浦:花火大会を通して、経営者としてのノウハウを学ぶことができ、成長させていただいています。いろいろな人と関わることで、会社にとっても自分自身にもプラスになっていると実感しています。花火は「成長」させてくれるもの。若い子たちには商工会青年部には成長できる事業があることを伝えたいです。そのために魅力を広めていきたいと思っています。

豊島:「挑戦と感謝の歴史」です。挑み続けてなんぼですね。花火大会を開催することが目的ではありません。花火大会を通して、様々な問題点や課題をどのようにしてクリアしていくか。考える力、実行手腕を磨くことで、経営者としての資質を向上させること。また、花火大会を成功させ、仲間との大きな達成感を共有することで、未来につながる結束と青年部活動に対する誇りを持ってもらうことで、組織の活性化を図ること。さらには日本一の花火大会を目指すことで、多くの市民や子供たちに夢と希望を持ってもらうと共に、ふるさと意識の向上を図ることで、地域振興発展に繋げていくこと。花火大会とは最高のツールなんです。やるからには盛り上げたいし、守りには入りたくない。できない理由は並べない。今できることを精一杯考え行動する。我々の挑戦はまだまだ続きます。これからも応援のほど、よろしくお願いいたします。そしてこれまで協力していただいた方々には感謝しかありません。

取材・文=タナカシノブ

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